髻中(けちゅう)の珠の譬え
妙法蓮華経 安楽行品第十四
あるところに、大きな勢力を持つ優れた大王(転輪聖王)がおりました。大王は、周りの小さな国々を治めて平和にしようとしましたが、小国の王たちは命令に従いませんでした。そこで、大王は、それらの国々に兵士を送り、人々を苦しめる者たちを討伐しました。

戦いで手柄を立てた兵士には、その功績に応じて、大王からご褒美がありました。大王は、兵士の奮闘ぶりを誉め、ある者には家を、またある者には田畑・宅地、村落・都市を与えました。衣服や装身具、あるいは珍しい宝・金・銀・瑠璃や人民などを与えられた者もおりました。しかし、大王は、頭頂のまげの中に結い込めた宝珠だけは、誰にも与えませんでした。

その宝珠は、この世でたったひとつしかない、最上の宝です。それを誰かに与えてしまったら、もらった人も、周りの人も、ただ驚いて、当惑してしまうほど貴重な宝でした。それでも、もし比べもののないほどの大手柄を立てた者がいれば、大王は喜んで、まげの中に秘めた宝珠を、その勇者に与えようとしていたのです。

解説
優れた大王(転輪聖王)とは、仏さまのことであり、小国と戦う兵士たちは、仏の教えを実践しようと努力する私たちの姿です。大王に抵抗する周りの国々とは、人間の煩悩や迷いの心を表しています。
私たちにはたくさんの煩悩がありますが、仏さまは、その一つひとつに対してふさわしい教えを説き、私たちの心が執着から離れるよう導いてくださっています。教えによって、心の魔に打ち勝とうと努力する私たちを、仏さまは、励まし、喜ばせようとしています。奮闘へのご褒美として、私たちは、心が動揺しない境地や、苦しみから離れた境地など、家や村落、衣服、珍しい宝、人民などに譬えられる、さまざまな宝を得ることができるのです。
しかし、仏さまは、この法華経の教えだけは、長い間、説くことはありませんでした。大王のまげの中にある宝珠とは、法華経の教えを表しています。法華経は、すべての人を仏の悟りに導く尊い教えですが、修行の浅い人が聞くと、当惑したり、抵抗感を持ってしまいます。そのため、私たちがこの教えを正しく受けとめられる境地に至るまで、仏さまは最上の教えを、大切に秘めていたのです。
至上の宝である法華経の教えを理解するためには、煩悩を除き、心を清らかにする修行が必要です。おのれの心を磨き、人のためになる良い行ないを積み重ねていくうちに、法華経の真義を深く感じられるようになるのです。
私たちの心が清まっていることを感じとられた仏さまは、いよいよ最高の教えを説かれました。仏さまは、私たちを信頼して、最高の宝をくださったのです。しっかりと信受して、私たち自身が、その真価を発揮できるようになっていきましょう。
(中央学術研究所 監修)
※ 解説は 『法華経の新しい解釈』 と 『新釈法華三部経』(庭野日敬著)を参考にしています。